何もしないトレーニングは無理せず環境設定と思いやりで
いつもご観覧いただきありがとうございます!今回は犬トレーニング界隈で時々見る様になった「何もしないトレーニング」について考えてみようと思います。
トレーナーも色々なので、ポジティブなものから侵襲的なものまで様々なやり方があると思いますが、私は最小限の介入で尚且つポジティブである事&犬の利益になる事を基準に考える先生方にいろいろ習っています。
何もしないトレーニングの目的はたぶん落ち着き

ときどきSNSで流れてくる「何もしないトレーニング」。さて何のために、誰のために行うのでしょうか?
ちなみに死んでいてもできる事は行動ではないので、犬は「何もしていない」訳ではないのですが…「何もしない」状態に見える犬は横になって筋肉を緩め通りを観察する、などの行動をしていますよね。
とはいえ私は徹底的行動主義者でもないため、名称は大勢の人類にとってわかりやすい「何もしない」でも良いのかもね、と思ったりなんだり。
落ち着いてほしいという希望
わかります、私も歳をとったら散歩の途中でちょっと一休みさせてほしいという時があります。私の場合はpooを拾った時にクラッときたり、散歩中に貧血ぽくなってベンチを探す事もあり。
20年前は元気だったんだけどな〜(それはそう)
外のベンチなどで休んでいる時に、トラブル回避のために吠えないで欲しい・暴れないで欲しいという願いもあるかもしれません。
人間は人間社会での忙しすぎる生活に疲れていますから、犬に「ちょっと一緒に落ち着こうよ」と望むのも自然な欲求だと思います。
犬のQOLを上げたい
これとても大事だいじ。やっぱり私たちが世話をする伴侶動物には、幸せな状態でいて欲しいものです。
何かに反応して激しく吠えたりしょっちゅうコルチゾール値が上がってしまうと体に負担がかかるし、いつも閾値を超えてしまうなら慢性的なストレスも気になります。
心臓が悪かったりして、吠えを軽減して落ち着きを促進させてあげたいという理由もあるかもしれません。
私たちはいつも全力で動き回っている訳じゃなくて、ただぼーっと外で休憩する時もあるんだよ、という経験を知って欲しいというのもありますよね。
ぼーっとしながら遠くを見たり空気の匂いを嗅いで情報収集をして、落ち着いて環境を味わう事ができたら、興奮度が上がらず犬にとっても楽なんじゃないかなと思います。
どうって事ないが増えると楽かも。社会化の延長でもあるわんね。
ちょくちょく興奮してコルチゾール分泌が下がり切らない生活は辛いもんね。
社会化の記事はこちら↓
私と菊の取り組み:セッション的な事はしない

引っ張らない散歩の記事でも似た様な事を書きましたが、何もしないトレーニングに関しても特にトレーニングセッション的な事はしません。
さあトレーニングセッションをするぞ!しつけの時間だぞ!と頑張るのではなく、無理のない「取り組み」をゆるく続けて、落ち着いて居られる休憩を経験していきます。
犬の事を勉強していたら、トレーニングセッション未満の「取り組み」をするうちに「トレーニングまで行かずに結果がついてくる」という事が増えました。
新たに行動を教えよう・人為的に行動を消去しようとする前に、健康状態を考慮したり先行事象のアレンジメント(環境設定)に取り組む事で丸くおさまるというやり方が好きです。最小限の介入なので、あまりコントロールせずできる限り犬が犬らしくいられると思います。
行動を教えた方が犬にとって利益がある・QOLが上がる・安全になる・トレーニングがエンリッチメントになる場合は、健康状態考慮→環境設定を経てスモールステップと共に正の強化を使ったセッションで教えます。
これはスーザン・フリードマン博士のヒューマンヒエラルキーロードマップを基準にしています。このマップは日本のプロやかいぬしさんに今一番広まって欲しいので、また元気な時に記事にできたらと思います。
うちではこんなふうにしてるわんよ↓
私たちの取り組みでしないこと

「何もしない」と謳うわりには犬を拘束したり両手で抑えながら撫で回したり、やたらと犬の身体に何かしている動画を目にします。
それをやっちゃうと犬の感情がネガティブになるよーとか、副作用があるよーというやり方はしたくない訳です。
犬が動こうとしたり何かに注目したら強い声やリーシュをピッとしてコレクションを加える
NOと叱責したりリーシュでショックを与えて叱る
犬が動かない様、リーシュを短く踏んで固定したり、犬の後ろに座って両手で押さえつけておく
犬が動いたらリーシュを引っ張って引き寄せたり、座れ伏せなどをさせる
おそらく「何もしない」目標のトレーニングで侵襲度の高い、犬がストレスサインを出している動画を時々見ます。海外の物も、日本の物も。
落ち着く事は、押さえつけられたり動いたらダメを教え込まれるのではなく、犬自身が今動かなくってもいいやと安全を感じていられるという事。今動くべきかどうかは犬の脳や神経系が決める事。
リーシュで拘束したり動いたら力で押さえつける様な「何もしないという型を教えこむ」「何もしない事に無理やり慣れさせる」形のトレーニングでは安全を感じられず、生き物としてはむしろもっと動いて拘束から逃れる必要が出てきます。
この逃れようとしている状態を大人しくなるまで拘束を続けると、犬が自ら考え行動する事を諦めてしまう可能性も▶︎学習性無力感:これは鬱の様なものと言われており、辛く苦しい状態です。
叱責したり罰を使うトレーニングは攻撃性を上げる事がわかっています。▶︎多くの介入には、対立的な「正の罰」、つまり、望ましくない行動を減らすために痛みなどの嫌悪刺激を用いた罰が含まれるが、これは動物にとって脅威的で恐怖を誘発する可能性があり、防御的な攻撃行動につながる場合があり、それを行う飼い主が怪我をするリスクがある(Mertens, 2002、Mills, 2002)など
また正の強化のみを用いて訓練された犬は将来行動上の問題を起こす可能性が低く、罰を用いて訓練された犬は恐怖に関連する反応を起こす可能性が高いことがわかった(Blackwell et al., 2007)など
※嫌悪刺激を使うトレーニングは良くないよという論文は山ほどあるので”など”です。
その嫌悪刺激とその時犬がフォーカスしていた物(周りにいた人、犬、乗り物など)が関連づけられてしまい、のちのち大きな反応が出る可能性もあります。▶︎古典的条件づけ(Classical conditioning)
犬は嫌悪刺激から身を守るため、嫌悪刺激が与えられるであろう状況の前の状況から反応していく様になる可能性があります。例)その場所へ行くのを拒否する、その場所に近づいたらダッシュで逃げようとしたりリーシュを噛み始める、お散歩準備で興奮するなど
つまり、犬を拘束して「我慢させる」「我慢を教える」という様な事はしません。
すること・無理せずできたらやる位でよい

代わりにこんな取り組みを、お互いできる時に無理せず気長に続けます。
取り組みの前に体調を考慮する
- 怪我や下痢など健康上の懸念事項がない
- 工事や花火などその子が苦手な騒音や騒動を起こす事が間近で起きていない
- 満足のいくルーティーンやエンリッチメントアクティビティを日常的に行ないよく満たされている
- 寝不足でない・空腹すぎない
- 当日ストレスとなる出来事が起きていない
- 排泄、情報収集をあらかた済ませている散歩の中盤以降
まずは犬満たし。何かする前にQOLが満たされているかをチェック。
健康状態が悪かったり、心配事やすべき事が頭をちらつく時は私たち人間も落ち着いていられませんよね。犬も同じく、肉体的・精神的なコンディションを気にかけてあげたいですね。
トリガースタッキングを避ける為に、数日前〜当日にストレスとなる出来事がなかった日がよいです。
ストレスは蓄積されます。ストレス体験や閾値を超えるトリガー体験が重なっていくことで大きな反応が爆発する様に発生する事。(例)昨日の夜花火があった→今日の朝散歩で苦手な人が近くに来た→昼のお留守番中に雷が凄かった→昼過ぎ苦手な宅配便が来た→夕散歩で、いつもはスルーできる刺激に大きな反応が出た
安全確保係のかいぬしの精神的余裕も大事ですよね。
かいぬしもトリガースタッキングあります。負荷が重なっていくと穏やかな判断ができなくなったり、もう無理!ってなったりしますよね。
嫌な事が重なったり、疲れている時は無理せずに。
取り組みの前に環境を考慮する
- 暑すぎず寒すぎずの季節を選ぶ
- ベンチの横など犬が伏せそうな場所がよく乾いていたり、日陰があったりと快適そう
- その場所が混まない時間帯
- 犬がどうしても反応してしまうリスなどの小動物が少ない場所
- 静かな場所が好ましい
犬が落ち着いていられない忙しい環境では、そもそも「ここでボーっと休もうよ」の取り組みは無理があります。
いきなり高レベルの場所で始めるのではなく、静かな場所から始めて徐々に他の場所へ般化していく方がお互いに楽です。
現地ですること
- 犬が落ち着いていられるかボディランゲージと周りを確認しながら休憩
- 最初はその場所の匂いを嗅いだりするので待つ
- 犬が横になったりして休む様ならそのまま休憩を楽しむ
- 犬がもう行こうよと言うなら休憩はおしまいして歩き出す
これだけです。つまりお互い休めそうなら散歩の途中でゆったり休んで世界を感じませんかという、そういう取り組みであり習慣です。
初回は犬は横になったりしないかもしれません。慎重な犬や元気いっぱいの若い犬は横になるまでに数日に分けてベンチへの訪問を行う必要があるかもしれません。単に好みの問題で、そのベンチでは横にならないかもしれません。
犬が休むかどうかはその犬が決める事なので付き合いましょう。
犬が自分で周辺を調べたり、少しの刺激に対して自分で解決する能力を育める様に、リーシュは1.8m以上の長めの物をたるませて持ちましょう。
リーシュが短すぎると犬はボディランゲージを表現しにくく、自分でカーミングシグナルを出したり離れたりする問題解決ができないため、反応が大きくなる可能性があります。
もちろん家の中で、並んでリラックスして休む事から始めるのも良いと思います。
トラブルシューティング
- よその犬や子供など、トリガー・興奮を誘発しそうな者がこっちへ来そうな時など
- いや来ないかも?と様子を見ないで早めに逃げよう
- 巻き込まれてしまったら、距離を取ってから危険手当のおやつをあげるのも有り▶︎感情の手助け
- 犬が刺激に釘付けになって動けなくなってしまったら体で視界を遮断してから呼び戻したり▶︎呼び戻し音を練習しておこう
- あっちに逃げようと思ったら、あっちからも犬!こっちからはスケボー!という様に四方を囲まれ動けない時もある
- 犬が刺激から目を逸らせる様に、おやつを連続であげる事で手元に注目したり、ハンドターゲットやfind itを行う▶︎普段から練習しておこう
犬にとってベンチそのものや、かいぬしが座ったりする場所=リラックスして小休止できる場所にしてあげたいわけです。
特に初期の段階でベンチ=大変な経験をする場所にならない様、刺激が来たらサッサと逃げよう。
人間はどうしても「もうちょっといけるかも、頑張れるかも」と考えてしまいがちなので、気をつけたいところです。
頑張るって何わんか〜人間て大変わんね〜
何が作用しているか考える

リラックスできる取り組みを続けていくといつものベンチで休める様になると思いますが、いつものベンチ以外の「座れる場所」でも同様に休める様になったり、犬が「ここで座ろうよ」と言ってくる様になる可能性があります。かわいい。
こんな事が起きていると思います↓
般化が起きる
般化(generalization)とは
ある場所や状況でできる様になった行動を、別の場所や状況でもできる様になること。
いろいろな場所で同じ取り組みを行う事で、般化を促す事ができます。
ライフリワードなど、自然に発生する強化子が行動を強化する
行動を強化や維持するには強化子が必要です。強化子はその時その個体が望むもの。
ライフリワードとは
食べ物やおもちゃではなく、「あの茂みを調べること」「道の向こう側に渡ること」「あのリスを追うこと」などその時望んでいること。トレーニング時に強化子として利用する事もでき、プレマック原理と組み合わせるととても効果的。
低頻度の行動→高頻度の行動の順で行うことで高頻度の行動が低頻度の行動を強化する、条件づけの一種。David Premackさんが1965年提唱。
この取り組みでは、「かいぬしの隣で横になってリラックスする」行動が強化されているならば、なんらかの強化子がその行動を強化しています。
「ゆっくり環境観察がしたい」かもしれないし、匂い嗅ぎ探検や排泄など散歩中の用事をあらかた済ませていれば、「ちょっとゆったり休みたい」かもしれません。
「ちょっと休んだら気持ちよかった」や「環境観察が楽しかった」の様な自然に発生する強化子を得ているかもしれません。
ベンチでは菊ちゃんは環境観察が好きなんだけど、おやつちょうだい!って言ったらくれるわんよね〜
全然あげるよ〜!私もおにぎり食べたりコーヒー飲んだりするよ。一緒に食べるのは楽しいよね〜、カフェに行く練習にもなるかもしれないね。
腹側迷走神経優位=社会的交流行動の促進
副交感神経優位=リラックスというのは有名な話ですよね。
叱られたり拘束されたりという嫌悪刺激や閾値を超えるトリガーとなるストレス刺激がなく、リラックスしていられる時は副交感神経の7〜8割を占めると言われている副交感神経の中から腹側迷走神経が優位になっています。
腹側迷走神経は私たち哺乳類の持つ社会的関与システムを司るため、自発的に学習したり他者と交流し世界と繋がりを持つ事ができます。免疫システムや消化器もええ感じに活性化。
逆に、嫌悪刺激を与えられて交感神経が優位な時(闘争・逃走)や背側迷走神経が優位な時(フリーズ・媚び)は、社会的関与システムにアクセスできないため学習したり交流したりする事が困難となります。
ポリヴェーガル理論より。詳しく知りたい方は本がたくさん出てます。
Co-regurationが作用している
Co-regurationとは日本語で協働調節。これを担うのも↑の腹側迷走神経。
哺乳類は神経系のニューロセプションにて今安全だよ〜・今危険だよー!という状態を互い受信し合う事ができ、行動的・生理学的状態を協働で調整する事ができます。
神経系は周りの生き物の神経系から常に反応しており、ニューロセプションは私たちが意識せずに環境が危険か安全かを評価してくれています。
ニューロセプションは神経の知覚による評価であるため、思考の評価よりも速いです。
- 周りの人の声のトーン、表情、ボディランゲージなど
- 周りの人の視線の方向、呼吸、姿勢や距離の取り方など
- 環境に危険がないかどうか、安心できる物(馴染みのある物など)を察知する など
例えば、いつもイライラしていて爆発する親と暮らしていると「あー今日も嫌な感じだな、いつキレるんだろう」と不安になるし、いつも精神的に安定した人と遊びに行くとリラックスしていられるし、初めて行く国で日本語や日本食屋さんを見ると少し安心しますよね。
周りにいる人がイライラしていたり、厳しく取り締まろうとしてきたりする▶︎ニューロセプションが危険を察知して防衛反応が活性化し交感神経がオンになり、
周りにいる人が穏やか▶︎安全を察知して防衛反応が落ち着き、腹側迷走神経はオンになり、社会的交流が促され絆が強化されるわけです。
安全の協働調節ができて初めて、関係性がうまくいっていると言えるのだとか。
厳しい躾やバランスドトレーニングでは、よく「威厳のあるエナジーや毅然とした態度で立場を示すと犬が落ち着く」と言いますが、その様な穏やかさの欠ける態度で犬と向き合う事は、犬のニューロセプションは安全ではなく危険を察知するでしょうから、協働調節システムから見ても懐疑的です。威圧されて諦めで落ち着いて見えるのではと思います。犬からしたら話の通じない、つまらない奴。
これらは今回の取り組みだけでなく、力を使わない犬育ての様々な場面で共通して起こる事です。
「もともと大人しい犬だからできるんでしょ」「あなたの犬はたまたま叱らないでもいけるんでしょ」と言われがちな力を使わない犬育てですが、実は何が起きているのか説明ができるし、腹側迷走神経が優位でいられる様にリラックスの協働調節が起こる様に環境を操作したり気を遣ったりしているわけですね。
けっこう気を遣うので思いやりや共感が鍵になると思っています。
まとめ:「何もしない」様に見える落ち着きは、教え込むよりも結果として現れるもの

私はいわゆる「落ち着き」と呼ばれるインパルスコントロール(衝動制御)とかレジリエンス(回復力)って、人間がなんとか犬に教えようとして我慢させる・乗り越えさせる様なトレーニングをして構築するのではなく、毎日の生活の中での安心安全ポジティブな選択を学び、経験の結果としてついてくる物だと思っています。
安心感から育つ自己肯定感や予測可能性や自信などと繋がっている様なものですかね。
予測可能性についてはこちらの記事でも書いてます↓
別の種に対してなんでもかんでも教え込んでどちらか一方がコントロール過多になってしまうのも好きじゃないです。
犬とコントロール権を分け合っても、うまく行っています。お互いが自分で環境をコントロールする力を持っていい塩梅に過ごせる様にしていきたいと思っています。
それでは、よい犬暮らしを!





何もしないトレーニングをやってみたいけど、リーシュ拘束などを使って動きを我慢させるトレーニングはしたくないという方にとってヒントになれば幸いです。